電子取引データの保存義務——ひとり事業者が最小の手間で満たす方法

公開: 2026-08-20
電子帳簿保存法電子取引個人事業主経理帳簿

メールに添付されたPDFの請求書。Amazonの購入履歴からダウンロードした領収書。クラウドサービスの利用明細。

これらを印刷してファイルに綴じ、元のデータは消しているなら、その処理は認められていません。電子取引データの保存は義務であり、データそのものを残す必要があります。

とはいえ、専用システムの導入は必須ではありません。何をすれば足りるのかを整理します。


何が対象になるのか

対象は「データでやりとりしたもの」です。

逆に、紙で受け取った請求書をスキャンする義務はありません。紙は紙のまま保存して構いません。

やりとりの形保存の方法
データで受け取ったデータのまま保存する(義務)
データで送った送ったデータを保存する(義務)
紙で受け取った紙のまま保存でよい。スキャンは任意

保存するファイル形式は問われません。PDFに変換したものでも、スクリーンショットでも構いません。

電子取引データ保存の対象範囲。データで受領・送付したものはデータ保存が義務、紙で受け取ったものは紙のまま保存でよい
判定はシンプル。「データで来たか、紙で来たか」だけを見る

満たすべき要件は2つだけ

要件は「真実性の確保」と「可視性の確保」の2つです。名前は硬いですが、中身は難しくありません。

真実性の確保(改ざん防止)

次のいずれかを満たします。

  1. 改ざん防止のための事務処理規程を定めて守る
  2. タイムスタンプを付与する
  3. 訂正・削除の履歴が残るシステムで授受・保存する

1でよいというのがこの制度のいちばん重要な点です。費用はかかりません。国税庁が事務処理規程のサンプルを公開しているので、それを自分の事業に合わせて直し、実際に守るだけで要件を満たします。

可視性の確保

前者は、仕事でパソコンを使っていれば満たしています。問題は検索要件のほうです。

検索要件は、多くのひとり事業者には不要

検索できるようにするのが面倒に見えますが、次のどちらかに当てはまるなら、検索要件そのものが不要になります

いずれの場合も、税務調査等の際に「ダウンロードの求め」に応じられるようにしておくことが条件です。

個人事業主の多くは、前者だけで該当します。つまり必要なのは、事務処理規程を作り、データを消さずに保存しておくこと。実質これだけです。

やること費用該当する要件
事務処理規程を作って守る0円真実性の確保
データをフォルダに残す0円可視性(検索要件は売上5,000万円以下なら不要)
調査時にデータを渡せる状態にする0円ダウンロードの求めへの対応

検索要件が必要な場合の簡易な方法

売上が5,000万円を超えるなど検索要件が必要になる場合も、専用システムは要りません。国税庁が2つの方法を示しています。

方法1: 表計算ソフトで索引簿を作る

連番・日付・金額・取引先を並べた一覧を作り、表計算ソフトの検索機能で探す方法です。索引簿のサンプルも国税庁が公開しています。

方法2: 規則的なファイル名を付ける

ファイル名に「日付・金額・取引先」を規則的に入れ、特定のフォルダにまとめておく方法です。

20260331_110000_霞商店.pdf
20260210_330000_国税工務店.pdf

これでフォルダの検索機能がそのまま使えます。

準備が間に合わない場合の猶予措置

規程を作る時間もない、という場合の逃げ道も用意されています。次の2つを満たせば、データを保存しておくだけで足ります

  1. 要件に従って保存できなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認めること(事前申請は不要)
  2. 税務調査等の際に、データのダウンロードの求めと、プリントアウトした書面の提示・提出の求めの両方に応じられるようにしていること

「相当の理由」は狭くありません。国税庁の資料では、人手不足、システム整備が間に合わない、資金不足などが例として挙げられています。事前の申請や届出も不要です。

対応の流れ。事務処理規程を作れば原則対応、間に合わなければ猶予措置。いずれの場合もデータを消さずに保存することが共通の前提
どの道を通っても、共通の前提は「データを消さないこと」

ただし、猶予措置に乗るとしてもデータを消してよいわけではありません。データが原本であり、それを残しておくことがすべての出発点です。ここだけは代わりがありません。

青色申告特別控除75万円との関係

もうひとつ、先の話ですが押さえておきたい改正があります。

e-Taxによる申告に加えて「優良な電子帳簿」の要件を満たすと、青色申告特別控除が65万円から75万円になります。適用は令和9年分以後です。

ここで求められる「優良な電子帳簿」は、この記事で説明した電子取引データの保存とは別物で、要求水準が上がります。

電子取引データの保存優良な電子帳簿
位置づけ義務任意(満たすと控除が増える)
改ざん防止事務処理規程でよい訂正・削除の履歴が残ること
検索売上5,000万円以下なら不要日付・金額・取引先で検索できること
帳簿間の関連要件なし相互に関連性を確認できること

事務処理規程では届きません。帳簿ソフト側が履歴を持っている必要があります。私が作っているちょうぼっちでは、仕訳を修正しても元の記録が履歴として残る仕組みなど、この要件まわりの対応を進めています。

まとめ

参考(国税庁)