電子取引データの保存義務——ひとり事業者が最小の手間で満たす方法

メールに添付されたPDFの請求書。Amazonの購入履歴からダウンロードした領収書。クラウドサービスの利用明細。
これらを印刷してファイルに綴じ、元のデータは消しているなら、その処理は認められていません。電子取引データの保存は義務であり、データそのものを残す必要があります。
とはいえ、専用システムの導入は必須ではありません。何をすれば足りるのかを整理します。
何が対象になるのか
対象は「データでやりとりしたもの」です。
- メールに添付された請求書・領収書・見積書・注文書
- Webサイトからダウンロードした領収書や利用明細
- 電子契約サービスで交わした契約書
- 受け取ったものだけでなく、自分が送ったものも対象
逆に、紙で受け取った請求書をスキャンする義務はありません。紙は紙のまま保存して構いません。
| やりとりの形 | 保存の方法 |
|---|---|
| データで受け取った | データのまま保存する(義務) |
| データで送った | 送ったデータを保存する(義務) |
| 紙で受け取った | 紙のまま保存でよい。スキャンは任意 |
保存するファイル形式は問われません。PDFに変換したものでも、スクリーンショットでも構いません。

満たすべき要件は2つだけ
要件は「真実性の確保」と「可視性の確保」の2つです。名前は硬いですが、中身は難しくありません。
真実性の確保(改ざん防止)
次のいずれかを満たします。
- 改ざん防止のための事務処理規程を定めて守る
- タイムスタンプを付与する
- 訂正・削除の履歴が残るシステムで授受・保存する
1でよいというのがこの制度のいちばん重要な点です。費用はかかりません。国税庁が事務処理規程のサンプルを公開しているので、それを自分の事業に合わせて直し、実際に守るだけで要件を満たします。
可視性の確保
- ディスプレイやプリンタ等を備え付けていること
- 「日付・金額・取引先」で検索できること
前者は、仕事でパソコンを使っていれば満たしています。問題は検索要件のほうです。
検索要件は、多くのひとり事業者には不要
検索できるようにするのが面倒に見えますが、次のどちらかに当てはまるなら、検索要件そのものが不要になります。
- 2課税年度前の売上高が5,000万円以下である
- 電子取引データをプリントアウトして、日付および取引先ごとに整理している
いずれの場合も、税務調査等の際に「ダウンロードの求め」に応じられるようにしておくことが条件です。
個人事業主の多くは、前者だけで該当します。つまり必要なのは、事務処理規程を作り、データを消さずに保存しておくこと。実質これだけです。
| やること | 費用 | 該当する要件 |
|---|---|---|
| 事務処理規程を作って守る | 0円 | 真実性の確保 |
| データをフォルダに残す | 0円 | 可視性(検索要件は売上5,000万円以下なら不要) |
| 調査時にデータを渡せる状態にする | 0円 | ダウンロードの求めへの対応 |
検索要件が必要な場合の簡易な方法
売上が5,000万円を超えるなど検索要件が必要になる場合も、専用システムは要りません。国税庁が2つの方法を示しています。
方法1: 表計算ソフトで索引簿を作る
連番・日付・金額・取引先を並べた一覧を作り、表計算ソフトの検索機能で探す方法です。索引簿のサンプルも国税庁が公開しています。
方法2: 規則的なファイル名を付ける
ファイル名に「日付・金額・取引先」を規則的に入れ、特定のフォルダにまとめておく方法です。
20260331_110000_霞商店.pdf
20260210_330000_国税工務店.pdf
これでフォルダの検索機能がそのまま使えます。
準備が間に合わない場合の猶予措置
規程を作る時間もない、という場合の逃げ道も用意されています。次の2つを満たせば、データを保存しておくだけで足ります。
- 要件に従って保存できなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認めること(事前申請は不要)
- 税務調査等の際に、データのダウンロードの求めと、プリントアウトした書面の提示・提出の求めの両方に応じられるようにしていること
「相当の理由」は狭くありません。国税庁の資料では、人手不足、システム整備が間に合わない、資金不足などが例として挙げられています。事前の申請や届出も不要です。

ただし、猶予措置に乗るとしてもデータを消してよいわけではありません。データが原本であり、それを残しておくことがすべての出発点です。ここだけは代わりがありません。
青色申告特別控除75万円との関係
もうひとつ、先の話ですが押さえておきたい改正があります。
e-Taxによる申告に加えて「優良な電子帳簿」の要件を満たすと、青色申告特別控除が65万円から75万円になります。適用は令和9年分以後です。
ここで求められる「優良な電子帳簿」は、この記事で説明した電子取引データの保存とは別物で、要求水準が上がります。
| 電子取引データの保存 | 優良な電子帳簿 | |
|---|---|---|
| 位置づけ | 義務 | 任意(満たすと控除が増える) |
| 改ざん防止 | 事務処理規程でよい | 訂正・削除の履歴が残ること |
| 検索 | 売上5,000万円以下なら不要 | 日付・金額・取引先で検索できること |
| 帳簿間の関連 | 要件なし | 相互に関連性を確認できること |
事務処理規程では届きません。帳簿ソフト側が履歴を持っている必要があります。私が作っているちょうぼっちでは、仕訳を修正しても元の記録が履歴として残る仕組みなど、この要件まわりの対応を進めています。
まとめ
- データで受け取った・送った請求書や領収書は、データのまま保存する義務がある。印刷して元データを消すのは不可
- 要件は真実性(改ざん防止)と可視性の2つ。改ざん防止は事務処理規程を作って守るだけで満たせる
- 2課税年度前の売上高5,000万円以下なら検索要件は不要。ひとり事業者の多くはここに入る
- 間に合わない場合も、相当の理由があり調査に応じられるなら、保存しておくだけでよい
- 75万円控除を狙うなら、これとは別に「優良な電子帳簿」の要件が必要