「103万円の壁」は結局いくらになったのか——160万円と123万円が両方正しい理由

公開: 2026-08-19
基礎控除103万円の壁所得税個人事業主税制改正

「103万円の壁が178万円になる」という話が広く報じられました。結論から言うと、178万円にはなっていません。

やっかいなのは、正しい答えがひとつではないことです。令和7年分・令和8年分は160万円、令和9年分以後は123万円。どちらも正しく、年分を書かずに語ると片方が嘘になります。

なぜそうなるのかを、国税庁の資料をもとに整理します。


そもそも103万円とは何だったのか

給与収入だけの人にとって、所得税がかからない上限が103万円でした。内訳はこうです。

| 控除 | 改正前 | |---|---| | 給与所得控除の最低保障額 | 55万円 | | 基礎控除 | 48万円 | | 合計(非課税の上限) | 103万円 |

この2つを足した金額までなら課税所得がゼロになる、という単純な足し算です。

給与所得控除は65万円になった(恒久)

令和7年度税制改正で、給与所得控除の最低保障額は55万円から65万円に引き上げられました。給与等の収入金額が190万円までの場合に適用されます。

こちらは期限のない、恒久的な改正です。

基礎控除は「2階建て」になった

ややこしいのは基礎控除のほうです。

恒久的な引き上げは48万円から58万円まで。そのうえで、令和7年分と令和8年分に限り、合計所得金額に応じた上乗せがあります。

| 合計所得金額 | 令和7年分・令和8年分 | 令和9年分以後 | |---|---|---| | 132万円以下 | 95万円 | 58万円 | | 132万円超336万円以下 | 88万円 | 58万円 | | 336万円超489万円以下 | 68万円 | 58万円 | | 489万円超655万円以下 | 63万円 | 58万円 | | 655万円超2,350万円以下 | 58万円 | 58万円 |

※合計所得金額2,350万円超は段階的に縮小し、2,500万円超はゼロになります。

だから答えが2つある

給与収入だけでパートやアルバイトの範囲に収まる人は、表のいちばん上の行に入ります。

| 年分 | 給与所得控除 | 基礎控除 | 非課税の上限 | |---|---|---|---| | 改正前 | 55万円 | 48万円 | 103万円 | | 令和7年分・令和8年分 | 65万円 | 95万円 | 160万円 | | 令和9年分以後 | 65万円 | 58万円 | 123万円 |

「160万円になった」も「123万円になった」も、それぞれの年分では正しい説明です。ニュースやSNSで数字が食い違って見えるのは、多くの場合どちらかが年分を省いているためです。

178万円という数字は改正の議論の過程で出てきたもので、そのままの形では成立しませんでした。

なお、これらの改正は令和7年12月1日に施行され、令和7年分以後の所得税について適用されます。将来の話ではなく、すでに始まっています。


個人事業主にはどう効くか

給与所得控除は事業所得には関係ありません。個人事業主にとって効くのは基礎控除のほうです。

事業所得が200万円の人で計算してみます。合計所得金額200万円は「132万円超336万円以下」の帯に入るので、基礎控除は令和7年分・令和8年分が88万円です。

| 年分 | 基礎控除 | 課税所得(事業所得200万円の場合) | |---|---|---| | 改正前 | 48万円 | 152万円 | | 令和7年分・令和8年分 | 88万円 | 112万円 | | 令和9年分以後 | 58万円 | 142万円 |

令和7年分と令和8年分は課税所得が40万円減ります。税率5%の帯なら約2万円、10%の帯なら約4万円の負担減です。届出も申請も必要なく、確定申告で自動的に反映されます。

ただし上乗せは2年で終わります。令和9年分では課税所得が30万円戻るため、そこを織り込まずに手取りの見通しを立てると、3年目にずれます。

扶養している家族がいる場合

あわせて、19歳以上23歳未満の親族について「特定親族特別控除」が創設されました。

学生の子どもがアルバイトをしている家庭では、収入が一定額を超えた瞬間に親の税負担が跳ね上がる問題が指摘されていました。この改正で、そこが段階的に変わるようになります。

控除額は親族の所得区分ごとに細かく決まっているため、対象になりそうな方は国税庁の資料で確認してください。


帳簿の側にも改正がある

もうひとつ、個人事業主に関係する改正があります。青色申告特別控除の75万円です。

e-Taxによる申告に加えて「優良な電子帳簿」の要件を満たすと、控除額が65万円から75万円になります。適用は令和9年分以後なので、まだ準備の時間があります。

注意したいのは、「優良な電子帳簿」は電子で保存していれば満たせるものではない、という点です。訂正・削除の履歴が残ること、帳簿どうしを相互にたどれること、日付・金額・取引先で検索できることが求められます。紙をPDFにして保存しておけばよい、という話ではありません。

要件の詳しい中身は、青色申告のメリットの記事もあわせてご覧ください。

まとめ

制度の数字は、議論の途中で出た案がそのまま記憶に残りやすいものです。手取りや働き方の判断に使う前に、国税庁の資料で確認することをおすすめします。

参考(国税庁)