事業所得と雑所得の分かれ目——記帳と帳簿の保存があるかどうかで決まる

公開: 2026-08-22
事業所得雑所得青色申告確定申告個人事業主

同じ金額を稼いでいても、それが事業所得なのか雑所得なのかで、税金の扱いは大きく変わります。青色申告特別控除が使えるか、赤字を他の所得と相殺(損益通算)できるか、赤字を繰り越せるか。どれも事業所得でなければ使えません。

この区分については「収入金額300万円が境目」という説明をよく見かけます。ただ国税庁の通達を読むと、そこだけを見る話ではありませんでした。整理します。


原則は社会通念での判定

所得税基本通達35-2の(注)は、まずこう定めています。

事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。

「社会通念」という言い方は曖昧に見えますが、判例で判断材料が示されています。通達の解説では最判昭和56年4月24日と東京地判昭和48年7月18日が引かれていて、営利性・有償性、継続性・反復性、自己の危険と計算における企画遂行性、費やした労力の程度、人的・物的設備の有無、職歴や社会的地位、生活状況などを総合勘案する、とされています。

つまり本来は総合判断です。ただ、それだけでは納税者が判断できないので、通達は実務的な軸を示しています。

実務の軸は「記帳と帳簿書類の保存」

通達の解説にある表がいちばん分かりやすいので、そのまま紹介します。

収入金額記帳・帳簿書類の保存あり記帳・帳簿書類の保存なし
300万円超概ね事業所得概ね業務に係る雑所得
300万円以下概ね事業所得業務に係る雑所得

注目したいのは、**記帳と帳簿書類の保存があれば、収入金額にかかわらず「概ね事業所得」**とされている点です。300万円以下でも事業所得になり得ます。

解説にはこう書かれています。

その所得に係る取引を帳簿書類に記録し、かつ、記録した帳簿書類を保存している場合には、一般的に、営利性、継続性、企画遂行性を有し、社会通念での判定において、事業所得に区分される場合が多いと考えられます。

逆に、記帳していない・記録していても保存していない場合は、

一般的に、営利性、継続性、企画遂行性を有しているとは認め難く、また、事業所得者に義務付けられている記帳や帳簿書類の保存が行われていない点を考慮すると、社会通念での判定において、原則として、事業所得に区分されないものと考えられます。

帳簿を付けているかどうかが、区分の実質的な分かれ目になっています。

300万円超なら保存がなくても事業所得になり得る

もうひとつ、通達の(注)にはこう書かれています。

その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得に該当する

括弧書きが効いています。収入金額が300万円を超えるような規模で行っている場合は、帳簿書類の保存がない事実のみでは所得区分を判定せず、事業所得と認められる事実があれば事業所得として扱うとされています。

ただしこれは「保存しなくてよい」という話ではありません。帳簿の保存は義務です。

帳簿があっても個別判断になる2つの場合

記帳・保存をしていても、次の場合は事業と認められるかどうかを個別に判断するとされています。

1. 収入金額が僅少と認められる場合

例えば、その所得の収入金額が、例年、300万円以下で主たる収入に対する割合が10%未満の場合は、「僅少と認められる場合」に該当すると考えられます。

※「例年」とは、概ね3年程度の期間をいいます。

ここでようやく「300万円」が出てきます。ただし条件は**「300万円以下」かつ「主たる収入に対する割合が10%未満」かつ「例年(概ね3年)」**の3つが揃った場合です。

会社員が副業をしている例で考えると、給与が800万円で副業の収入が50万円(給与の6.25%)という状態が3年続いていれば、僅少と見られる可能性があります。逆に、給与400万円で副業収入が100万円(25%)なら10%以上なので、この例には当たりません。

「300万円以下だから雑所得」という単純な話ではないことが分かります。

2. 営利性が認められない場合

その所得が例年赤字で、かつ、赤字を解消するための取組を実施していない場合は、「営利性が認められない場合」に該当すると考えられます。

※「赤字を解消するための取組を実施していない」とは、収入を増加させる、あるいは所得を黒字にするための営業活動等を実施していない場合をいいます。

赤字そのものが問題なのではなく、赤字を放置しているかどうかが見られます。事業として黒字化に取り組んでいるなら、赤字の年があっても営利性は否定されない、という整理です。

区分が変わると何が変わるのか

事業所得と雑所得で、使える制度が違います。

項目事業所得業務に係る雑所得
青色申告特別控除(最高65万円)使える使えない
損益通算(赤字を他の所得と相殺)できるできない
純損失の繰越し(3年)できるできない
青色事業専従者給与使える使えない

差は小さくありません。65万円の控除だけでも、税率20%なら13万円の違いになります。

実務としてどうするか

結論としては単純で、帳簿を付けて保存しておくことに尽きます。

  1. 取引を帳簿に記録する
  2. 記録した帳簿書類を保存する(保存期間は別の記事にまとめました)
  3. 赤字が続くなら、黒字化のための取組をしていることが説明できる状態にしておく

1と2は事業所得者の義務でもあります。区分のためにやるというより、やるべきことをやっていれば区分でも有利という関係です。

私自身、始めた当初は「規模が小さいから雑所得でいいだろう」と思っていました。ただ通達を読むと、規模ではなく記録しているかどうかが軸になっている。表計算ソフトで挫折したあと、自分用に無料の帳簿ツールちょうぼっちを作ったのは、この「続けられる形にする」ためでもあります。

まとめ

内容は本記事執筆時点(2026年8月)の所得税基本通達35-2およびその解説(令和4年10月7日付改正)に基づきます。個別の判断は所轄の税務署または税理士にご確認ください。


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