本則課税で控除を受けるための帳簿と請求書——保存しないと納税額が増える
本則課税(原則課税)は、売上の消費税から実際に払った仕入れ・経費の消費税を差し引く計算方法です。届出も要らず、何もしなければこちらになります。
ただし「実際に払ったから差し引ける」わけではありません。差し引く(仕入税額控除を受ける)には、帳簿と請求書等の保存が要件です。保存がなければ、払っていても控除できません。
2割特例が終わったあとの選び方で「本則課税を選ぶ道を残すには記録が要る」と書いたのは、この保存要件のことです。ここを具体的に見ていきます。
原則は「帳簿+適格請求書」の両方
仕入税額控除を受けるには、原則として帳簿と請求書等の両方の保存が必要です。どちらか片方ではありません。
免税事業者やインボイス未登録の事業者からは適格請求書をもらえないので、原則としては控除できません。ただし当面は一定割合を控除できる経過措置があります(2026年10月からは70%)。これは別の記事にまとめました。
適格請求書の6つの記載事項
もらった請求書が要件を満たしているかを見る目が必要になります。適格請求書には次の6項目が要ります。
- 書類の作成者の氏名または名称および登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨)
- 税率ごとに区分した対価の額の合計額および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
太字にした3つが、インボイス制度で新しく必要になった部分です。特に登録番号が入っていない請求書は適格請求書ではありません。「T」で始まる13桁の番号です。
小売店・飲食店・タクシーは簡易版でよい
小売業、飲食店業、タクシー業など不特定多数を相手にする事業者は、記載要件が緩和されています。
- 税率ごとに区分した消費税額等または適用税率のどちらかの記載でよい(両方でなくてよい)
- 交付を受ける事業者の氏名・名称の記載が不要(上の6番)
コンビニやスーパーのレシートに自分の名前が書かれていないのはこのためです。宛名なしのレシートでも要件を満たします。
税込1万円未満なら帳簿だけでよい(少額特例)
実務でいちばん効くのがこれだと思います。
一定規模以下の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れについて、適格請求書の保存がなくても帳簿の保存だけで控除できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5千万円以下 |
| 対象 | 税込1万円未満の課税仕入れ |
| 期間 | 令和5年10月1日〜令和11年9月30日まで |
個人事業主の多くはこの規模に収まるはずです。少額の経費についてインボイスを1枚ずつ確認する必要がないのは、かなり負担が違います。
判定は「1回の取引」単位
ここは間違えやすいところです。
少額(税込1万円未満)の課税仕入れに該当するか否かについては、一回の取引の課税仕入れに係る金額(税込み)が1万円未満かどうかで判定するため、課税仕入れに係る一商品ごとの金額により判定するものではありません。
商品ごとではなく、1回の取引の合計額で判定します。 5,000円の商品を2つ買って合計10,000円なら、1万円未満ではないので少額特例の対象外です。レシート単位で見る、と理解しておくとよさそうです。
令和11年9月末で終わる
この特例には期限があります。2029年9月30日までです。それ以降は1万円未満でもインボイスの保存が必要になります。
請求書がなくても控除できる場合
適格請求書の交付を受けることが困難な取引については、帳簿の保存だけで控除が認められています。代表的なものはこうです。
- 税込3万円未満の公共交通機関(船舶・バス・鉄道)による旅客の運送
- 自動販売機・自動サービス機からの税込3万円未満の商品の購入
- 郵便切手を対価とする郵便サービス(郵便ポストに差し出されたもの)
- 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当
電車代やバス代の領収書を集める必要がないのは、この規定があるからです。ただしタクシーは公共交通機関特例の対象外なので、適格請求書(または少額特例)が必要になります。
これらは帳簿に「〇〇特例」のように該当する旨を記載することが求められます。
帳簿に何を書くか
保存すべき帳簿には、次の事項の記載が必要です。
- 課税仕入れの相手方の氏名または名称
- 課税仕入れを行った年月日
- 課税仕入れに係る資産または役務の内容(軽減税率対象ならその旨)
- 課税仕入れに係る支払対価の額
そして、経過措置や各種特例を使う場合は、それに該当する旨の記載が追加で必要です。免税事業者からの仕入れなら「70%控除対象」、公共交通機関特例なら「3万円未満の鉄道料金」といった具合です。
実務としてどう組み立てるか
私は次のように整理しています。
- 取引先ごとに登録番号を持っておく。 請求書が来るたびに探すのではなく、一覧として持つ。登録の有無で処理が変わるため
- 1万円未満は少額特例で流す。 対象規模なら、少額の経費は帳簿だけでよい。ただし2029年9月までの期限付き
- 1万円以上は請求書の記載事項を確認して保存する。 特に登録番号の有無
- 特例を使ったものは帳簿に理由を書く。 後から見て「なぜこれは請求書がないのか」が分かる状態にする
3番と4番は、日々の記帳のときにやるかどうかで負担が段違いです。申告期になってから1年分のレシートを分類するのは現実的ではありません。
私が無料の帳簿ツールちょうぼっちを自分用に作ったのも、この「入力時に必要な情報を残す」を仕組みにしたかったからです。
まとめ
- 本則課税で控除を受けるには帳簿と請求書等の両方の保存が必要。払っただけでは控除できない
- 適格請求書には6つの記載事項。特に登録番号(T+13桁)の有無を見る
- 小売店・飲食店・タクシーは簡易版でよく、宛名なしのレシートでも要件を満たす
- 税込1万円未満は帳簿だけでよい(少額特例)。 基準期間1億円以下等が条件で、令和11年9月30日まで
- 少額特例の判定は1回の取引単位。商品ごとではない
- 公共交通機関3万円未満などは請求書不要。ただしタクシーは対象外
数字は本記事執筆時点(2026年8月)の国税庁タックスアンサーNo.6625・インボイス制度に関するQ&A問111・問112および国税庁の少額特例の解説に基づきます。個別の判断は所轄の税務署または税理士にご確認ください。
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