返品・値引き・振込手数料と返還インボイス——1万円未満は交付不要、判定は請求単位

公開: 2026-08-23
インボイス制度消費税本則課税適格返還請求書個人事業主

2割特例が終わって本則課税や簡易課税で計算するようになると、売上側の書類も見直しになります。そこで出てくるのが**返還インボイス(適格返還請求書)**です。

値引きや返品をしたら発行する書類、と説明されます。ただ、いちばん頻度が高いのは値引きでも返品でもなく、買手が振込手数料を差し引いて振り込んでくるケースだと思います。500,000円の請求に対して499,560円が入金される、あの440円です。

この440円に返還インボイスが必要なのか。国税庁のQ&Aを読むと、必要かどうかは金額と、その440円を何として処理するかで決まりました。整理します。


返還インボイスは原則として交付義務がある

まず原則です。

適格請求書発行事業者には、課税事業者に返品や値引き等の売上げに係る対価の返還等を行う場合、適格返還請求書を交付する義務が課されています(消法57の4③)。

「売上げに係る対価の返還等」の範囲は広く取られています。

事業者の行った課税資産の譲渡等に関し、返品を受け又は値引き若しくは割戻しをしたことにより、売上金額の全部若しくは一部の返還又は当該売上げに係る売掛金等の債権の額の全部若しくは一部の減額を行うことをいいます(消法38①)。

返品・値引き・割戻し(リベート)だけでなく、売掛金を減額すること自体が対象です。振込手数料分を売手が負担して売掛金を減らすのも、形式上はここに入ります。

記載事項は5つ

#記載事項
1適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
2対価の返還等を行う年月日、及びその基となった課税資産の譲渡等を行った年月日(適格請求書を交付した売上げに係るものは、課税期間の範囲で一定の期間の記載で差し支えない)
3対価の返還等の基となる資産又は役務の内容(軽減対象なら、その旨も)
4対価の返還等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
5対価の返還等の金額に係る消費税額等又は適用税率

2の「基となった課税資産の譲渡等を行った年月日」は、元の売上がいつだったかを書くという意味です。すでに適格請求書を出している売上に対する返還なら「11月分」のような期間表記で足ります。

税込1万円未満なら交付義務が免除される

ここが実務の分かれ目です。

売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務が免除されます(消法57の4③、消令70の9③二)。

税込1万円未満なら出さなくていい。440円の振込手数料はここに収まります。

しかもQ&Aは、求められても出す義務はないと明言しています。

そのため、取引の相手方から適格返還請求書の交付を求められたとしても、交付する義務はありません。

1万円未満は「請求・債権の単位」で判定する

免除されるかどうかの判定単位が、この論点でいちばん間違えやすいところだと思います。

具体的には、返還した金額や値引き等の対象となる請求や債権の単位ごとに減額した金額により判定することとなります(基通1-8-17)。

Q&Aの具体例が分かりやすいので、そのまま挙げます。

減額の内容判定
500,000円の請求に対し、買手が振込手数料相当額440円を差し引いて499,560円を支払う1万円未満。交付義務は免除
400,000円の請求に関し、1商品当たり100円のリベートを後日支払(合計20,000円)1万円以上。免除されない

②が重要です。1件あたりは100円でも、その請求に対する減額の合計で判定します。単価が小さいから免除、ではありません。

税率ごとに割ってはいけない

もうひとつ、Q&Aの注に細かい指定があります。

この1万円かどうかの判定は、値引き等の金額に標準税率が適用されたものと軽減税率が適用されたものが含まれている場合であったとしても、適用税率ごとの値引き等の金額により判定するものではなく、返還した金額や値引き等の対象となる請求や債権の単位ごとの減額金額により判定することとなります。

10%対象で6,000円、8%対象で6,000円の値引きをしたとします。税率ごとに見れば両方1万円未満ですが、判定は合計の12,000円で行うので免除されません。記載事項4が「税率ごとに区分して合計」なので税率ごとに分ける癖がつきますが、免除の判定は分けません。

なお、返還の適用税率は元の売上に従います。軽減税率(8%)の売上に対する値引きは、値引き側も8%です。

振込手数料は「何として処理するか」で必要書類が変わる

ここが本題です。買手が差し引いた440円について、Q&Aは契約関係等によって2つに分けています。

パターン1: 売上値引きとして処理する

売手側で440円を売上値引き(対価の返還等)にする場合です。

書類が1枚も増えません。 個人事業主にとっては、ほぼこれ一択だと思います。

パターン2: 買手から役務提供を受けた対価として処理する

440円を「代金決済上の役務提供(支払方法の指定に係る便宜)を受けた対価」とする場合です。売手が買手からサービスを買ったという整理になります。

したがって、売手は、請求金額から差し引かれた振込手数料相当額について、仕入税額控除の適用を受けるためには、買手から交付を受けた適格請求書の保存が必要となります。

買手から440円の適格請求書をもらわないと控除できません。 440円のインボイスを取引先に発行してもらう、という手間が発生します。売手が仕入明細書等を作って買手の確認を受ける方法もありますが、いずれにしても書類が増えます。

代わりの道として、Q&Aの注は少額特例に触れています。

一定規模以下の事業者については、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に国内において行う課税仕入れについて、当該課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満である場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存により、当該課税仕入れについて仕入税額控除の適用を受けることができる経過措置が設けられています

少額特例が使えるなら帳簿だけで済みます。ただし少額特例は令和11年(2029年)9月30日までの経過措置で、規模の要件もあります(詳細は本則課税の帳簿と請求書の要件に整理しました)。期限のある措置に依存するくらいなら、最初から売上値引きにしておくほうが安全だと考えています。

自分が払う振込手数料の保存はどうするか

売上ではなく、自分が銀行に払う振込手数料の話です。こちらも仕入税額控除を受けるには保存が必要です。

入出金手数料や振込手数料について仕入税額控除の適用を受けるには、原則として適格簡易請求書及び一定の事項が記載された帳簿の保存が必要となります

原則は1件ずつ適格簡易請求書を保存する、ということです。ただ現実的な代替が用意されています。

全ての入出金手数料及び振込手数料に係る適格簡易請求書の保存が困難なときは、金融機関ごとに発行を受けた通帳や入出金明細等(個々の課税資産の譲渡等に係る取引年月日や対価の額が判明するものに限ります。)と、その金融機関における任意の一取引に係る適格簡易請求書を併せて保存することで、仕入税額控除を行って差し支えありません。

明細と、その銀行の任意の1件分のインボイスを保存すればよい、という扱いです。銀行ごとに1枚取っておけば、あとは明細で足ります。

さらに、少額特例(基準期間の課税売上高1億円以下などの一定規模以下の事業者)が使えるなら、1万円未満の課税仕入れは帳簿だけでよいので、この対応も不要になります。

ATMでの振込みは3万円未満なら自動サービス機による取引として帳簿のみで控除できます。ネットバンキングで電磁的記録として適格簡易請求書が提供される場合は原則ダウンロードが必要ですが、同種の手数料を繰り返し支払っていて随時確認可能な状態であれば、ダウンロードしなくてもよいとされています。

記帳でどう受け止めるか

まとめると、返還インボイスは「原則交付、1万円未満は免除、判定は請求単位」という構造です。免除に当たるかどうかは、記帳の時点でその減額を何として入れたかで決まります。

私が無料の帳簿ツールちょうぼっちを自分用に作って使っているのも、この手の判断を入力時に片付けたかったからです。入金額と請求額の差を売上値引きとして入れておけば、その時点で書類の要否が決まります。あとから440円の性質を思い出すのは無理があります。

まとめ

数字と引用は本記事執筆時点(2026年8月)の国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問28・問29(令和8年4月改訂)・問60、および「多く寄せられるご質問」問⑧・問㉓に基づきます。契約関係によって処理が分かれる論点なので、個別の判断は所轄の税務署または税理士にご確認ください。


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