開業1年目の消費税——原則は免税、ただしインボイス登録で自分から課税事業者になる

開業して最初にやってくる不安のひとつが「消費税を納めることになるのか」です。
結論から書くと、開業した年は原則として免税です。ただしこれは黙っていれば守られるもので、自分から手放すこともできます。手放す代表的な理由がインボイス登録です。
そして2026年に開業した人と2027年に開業する人では、この判断の前提が変わります。
なぜ開業1年目は免税なのか
消費税を納める義務があるかどうかは、過去の売上で判定します。個人事業主の場合、見るのは次の二つです。
- 基準期間 … 2年前(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えているか
- 特定期間 … 前年の1月1日から6月30日までの課税売上高、または給与等支払額が1,000万円を超えているか
開業1年目には、このどちらも存在しません。2年前も前年も事業をしていないからです。判定する材料が無いので、納税義務も生じません。
同じ理由で、2年目も原則として免税になることが多くなります。2年目の基準期間は1年目の開業前の年で、ここにも売上は無いためです。ただし2年目は特定期間(1年目の1〜6月)が存在するので、開業直後から売上が大きい場合はここで引っかかります。
つまり売上だけで見れば、開業から最大2年ほど免税でいられるのが本来の姿です。詳しい判定は消費税を納める事業者になるのはいつかにまとめました。
免税を自分から手放すのがインボイス登録
ここが開業1年目の最大の分かれ道です。
インボイス(適格請求書)の発行事業者として登録すると、売上の金額に関係なく課税事業者になります。基準期間が無かろうが売上がゼロだろうが関係ありません。登録した時点で、消費税の申告と納税が発生します。
なぜそれでも登録するのかというと、取引先の側の事情です。取引先が課税事業者で本則課税を使っている場合、こちらがインボイスを出せないと、その取引先は支払った消費税を控除しきれません。実質的に取引先の負担が増えるため、登録を求められることがあります。
判断の軸は、自分の税額ではなく取引先が誰かです。
| 主な取引先 | 登録の必要性 |
|---|---|
| 一般消費者 | 低い。消費者は仕入税額控除をしないため、インボイスを求められない |
| 免税事業者・簡易課税の事業者 | 低い。相手も仕入税額控除の計算をしないか、インボイスを必要としない |
| 本則課税の法人・事業者 | 高い。相手の控除に直接影響する |
飲食店や個人向けの教室、小売のように相手が消費者中心なら、開業1年目に急いで登録する理由は薄くなります。逆に企業からの受注が中心なら、契約の前に確認されることが多くなります。
2026年開業と2027年開業で前提が違う
ここが今のタイミング特有の話です。
インボイス登録で課税事業者になった人の負担を軽くするために用意されたのが2割特例でした。売上にかかった消費税の2割だけを納めればよいというもので、仕入を集計する必要もありません。
この2割特例は、2026年9月30日を含む課税期間で終了します。暦年で申告する個人事業主なら、2026年分が最後です。
| 開業年 | 2割特例 |
|---|---|
| 2026年に開業してインボイス登録 | 2026年分のみ使える。2027年からは簡易課税か本則課税を選ぶ |
| 2027年以降に開業してインボイス登録 | 使えない。最初から簡易課税か本則課税 |
2割特例の詳細と終了後の選択はインボイスの2割特例が2026年9月末で終わると2割特例が終わったら簡易課税か本則課税かに書いています。
登録を急ぐ理由が一段減った、というのが現時点の実務感です。以前は「登録しても2割特例があるから負担は小さい」と言えましたが、2027年からはその緩衝材がありません。取引先から求められていないなら、免税のまま様子を見る判断も十分に成り立ちます。
届出の期限には開業年だけの特例がある
消費税の届出書は通常、適用したい課税期間が始まる前日までに出す必要があります。年をまたいでからでは間に合いません。
ただし開業年だけは特例があります。国税庁のタックスアンサーNo.6531は次のように定めています。
その事業を開始した日の属する課税期間の末日までに提出すれば、その課税期間から課税事業者となります。
つまり開業した年は、その年の12月31日までに出せばその年から適用できます。開業してから半年考えて、年末に決めても間に合うということです。簡易課税制度選択届出書についても同じ考え方の特例があります。
ただし注意点があります。
一度課税事業者を選択すると、原則として2年間は免税事業者に戻ることができない
戻れない期間があるので、「とりあえず出しておく」はできません。開業設備の購入が大きくて消費税の還付を狙う場合など、意図がはっきりしているときに使う制度です。
免税事業者でも消費税を請求していいのか
よくある誤解なので触れておきます。
免税事業者が請求書に消費税相当額を含めて請求することは、禁止されていません。仕入の際にはこちらも消費税を負担しているためです。免税事業者は、受け取った消費税を納めなくてよい(いわゆる益税になる)というだけです。
ただしインボイスの登録番号を持たない以上、適格請求書としては発行できません。登録番号らしきものを記載することは認められないので、請求書のフォーマットには注意が必要です。
帳簿づけはどうすればいいか
免税事業者のうちは、税込経理でそのまま記帳するのが簡単です。売上も経費も税込の金額をそのまま帳簿に載せます。消費税を区分して管理する必要がありません。
課税事業者になった年からは、経費ひとつひとつについて課税・非課税・不課税の区分と、インボイスの有無を持つ必要が出てきます。ここは記帳の手間が明確に増えるところです。
ちょうぼっちのように税区分を持てる記帳ツールを使っている場合は、登録のタイミングで設定を切り替えることになります。年の途中で登録した場合、同じ年の中で扱いが変わる点にも気をつけてください。
まとめ
- 開業1年目は基準期間も特定期間も無いため、原則として免税
- 売上だけで見れば最大2年ほど免税でいられる
- インボイス登録をすると売上に関係なく課税事業者になる。判断軸は自分の税額ではなく取引先が誰か
- 2割特例は2026年分で終了。2027年以降の開業では使えず、登録を急ぐ理由は一段減った
- 届出は開業年に限りその年の12月31日まで。ただし一度選ぶと2年間は戻れない
開業1年目にやるべきことは、登録の可否を今すぐ決めることではなく、取引先にインボイスを求められるかを確認することです。求められていないなら、年末までは考える時間があります。
開業まわりの手続き全体は開業届と青色申告承認申請書に、確定申告の流れは個人事業主の確定申告ガイドにまとめています。
参考
- 国税庁 タックスアンサー No.6531 新規開業年等の消費税の届出書の提出期限
- 国税庁 タックスアンサー No.6501 納税義務の免除
よくある質問
- 開業1年目は消費税を納めなくてよいのですか
- 原則として免税です。消費税の納税義務は基準期間(前々年)と特定期間(前年1月1日から6月30日)の実績で判定しますが、開業1年目はそのどちらも存在しないため判定材料がなく、納税義務も生じません。
- インボイス登録をすると売上が少なくても消費税を納めるのですか
- 納めます。適格請求書発行事業者として登録すると、売上の金額に関係なく課税事業者になります。基準期間がなくても、売上がゼロでも同じです。
- インボイス登録をするかどうかは何で判断すればよいですか
- 自分の税額ではなく取引先が誰かで判断します。取引先が本則課税の事業者なら、こちらがインボイスを出せないと相手の仕入税額控除に影響するため求められることがあります。一般消費者や免税事業者、簡易課税の事業者が中心なら必要性は低くなります。
- 2割特例は開業した年から使えますか
- 2026年に開業してインボイス登録した場合は2026年分のみ使えます。2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終了するため、暦年で申告する個人事業主は2026年分が最後です。2027年以降の開業では使えません。
- 消費税の届出はいつまでに出せばよいですか
- 開業した年に限り、その年の12月31日までに提出すればその年から適用されます。通常は課税期間の開始前日までですが、新規開業年には特例があります。ただし課税事業者を選択すると原則2年間は免税事業者に戻れません。